にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

民法の勉強は売買契約から?の巻

まいどでーす。

にーやんです。

司法試験ってやっぱり民事系を制する者が勝ちやすいなと、改めて思うところです。
特に民法は範囲が広いので、攻略は難しい。

初学者にとって最大の壁といえる。
小生もそうでした。

民法をマスターするコツは、まず売買契約を押さえること。

小生はそう思うところです。

なんで売買契約か?
まず売買契約は有償・双務契約の代表格でもあり、他の有償契約に準用されるもので、しかも最も具体例を想定しやすい。
そして、売買契約を理解するということは、契約の成立について理解することでもあり、そこでは意思表示や法律行為といった基本的な用語の理解が必要となるので、契約各論の知識だけではなく、民法総則の理解も必要だということも、これによって気づける。
そういうわけで、基本として押えるべき契約類型といえる。

というわけで、まず押えるのは民法555条から。
ここから契約の法的意味を理解することが可能になってくるので、具体的に考えてみる。

民法555条は次のように書かれている。

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


この規定から、AB間の売買契約は、その一方(A)が財産権(動産甲の所有権)を相手方(B)に移転することを約束し、相手方(B)がこれに対してその代金を支払うことを約束することによって、効力が発生するということがわかる。売買契約の効力というのは、売買契約に基づいて、買主Bは売主Aに買った物を引渡しを請求する権利を有するということを意味し、売主Aは買主Bに対して売った物の代金を支払えという権利を有するということを意味する。合意内容を考えれば当然の帰結。売主は物を売る義務、買主は代金を支払う義務を負う合意をしているわけだから、義務の反対の権利として買主・売主にはこのような権利がある。
したがって、売主Bが代金を支払わない買主Aに対して代金を支払って欲しいと訴訟を起こす場合、この売買契約の成立を主張すればいいということになる。
このように売買契約の成立は、簡単に言うと、Aが動産甲を売るということとBがこれに了承して買うということを合意したことを意味する。
AとBのこのような合意は、Aが動産甲の所有権をBに移転するというAの「意思表示」と、これを了承して代金を支払うというBの「意思表示」が合致することを意味する。
ここで、「意思表示」という言葉が出てきて、これは総則で定められるルールがある。意思表示とは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に表示する行為をいう。売買契約は買う・売るという意思表示によって成立し、売買の法律効果が発生する。これが民法555条の定めていること。
そして、例えば、錯誤によってBが買うという意思表示したといった場合には、95条の定める一定のルールの下で意思表示を無効とすることができる(改正民法では取消し)。
意思表示の無効の意味を理解するには、民法総則の民法119条などを押える必要がある。

ここで、パンデクテンという民法の体系が少しわかる。

まず債権債務関係に関する各論である契約のうち売買契約は、民法の総則で定める意思表示のルールが適用される。
意思表示に関する問題は、原則として総則の定めるルールが妥当するため、契約各論で出てくる意思表示においても当該ルールが適用される。
つまり、一般法と特別法の関係のように、特別法に当たる売買契約に関する特別の定めは555条以下に従い、そこに定められていない場合は一般法に当たる総則の規定(意思表示)が適用される。

こういった関係のパンデクテン方式の民法の体系がわかってくると条文の読み方も具体例にそって考えられるようになる。

契約についても、総則の定めがあり、これは民法が定める売買契約や消費貸借契約、委任契約などの各契約についても同様に妥当する。
例えば、契約総則に定められた契約の解除のルールは、個々の各契約にすべて妥当するルールということを意味する。

イメージ的には、木の幹

民法の規定全体の総則規定が木の幹
そして、そこから債権や物権といった類型のルールごとに枝分かれするルールが定めらていて、それらは木の幹で定められたルールに縛られるというイメージ。
売買契約は契約の一種として契約総則の枝に定められており、契約総則のルールが適用される。その契約総則は、債権に関する定めであるから債権総則のルールが適用される。
そうやってみれば民法の目次のルールがどのように適用されるのかが見えてくる。このような枝分かれする木をイメージして以下の目次を見てみるとなんとなくその意味がわかってくる。

 第1編 総則
  第5章 法律行為
   第2節 意思表示(第93条―第98条の2)

 第3編 債権
  第1章 総則
  第2章 契約
   第1節 総則
   第3節 売買
    第1款 総則(第555条―第559条)
    第2款 売買の効力(第560条―第578条)
    第3款 買戻し(第579条―第585条)

例えば、上記の目次の抜粋を見れば、意思表示は法律行為に関する定めということがわかり、法律行為が契約、単独行為、合同行為といった意思表示を不可欠の要素とする法律効果は発生させるための法律要件であるから、各契約にもここで定められたルールが適用されるということになる。
売買契約は、第3編に規定されていることから債権に関する定めの一種ということもわかる。

というわけで、民法の条文=ルールを押える際には、こういった知識があると理解が進みやすい。

要件事実的にもこういったルールを前提にどういう事実でどういう条文を適用するのかが見えてきたりする。
まず、債権的請求かどうかによって、債権総則の規定の適用の余地が出てきたり、契約なら契約総則、法律行為の規定などの適用の余地が出てくる。

そして、こういう抽象的なルールを実際の具体例で押えるのが民法のコツ。
要件事実の本のように紛争類型別に典型例をまず押えるのがお勧め。

AはBにパソコンを売った。パソコンはBに引き渡されたのに、代金が期日までに支払われていない。

こんな事例で、問題が「代金の支払いを請求することができるか?」といった内容なら、これは常識レベルでも答えはでてくる。
もっとも、答案としては、その理由も書く必要があるので、きちんとAのBに対する代金支払請求権が売買契約の成立によって認められることを指摘することは必要。そして、その根拠が民法555条だと。

しかし、問題が「AはBに対して民法上どのような手段を採れるか?」という内容ならどうだろうか?
もちろん、上述のとおり代金支払請求はできるが、それ以外に何かあるかも考える必要がある。
例えば、催告の上、解除をすることができるといったことを考えることができるが、これも契約一般に妥当する解除のルールが妥当するというパンデクテンの条文構造を理解しておけば漏れなく検討できる。

初学者が民法総則から勉強を初めてもなかなか理解しにくいのは、こういった民法の構造上の問題にある。
というわけで、まず各契約の冒頭規定で要件と効果を押えるのがお勧め。そこで、まず売買契約。

売買契約の成立が買う・売るといった意思表示を不可欠の要素とし、その具体的内容として目的物の財産権の移転とその代金支払いを要素する。
売買契約の(主たる)効力として、買主には目的物を引き渡してもらえる権利があって、売主には代金を支払ってもらえる権利がある。

効果・要件を定める条文の意味として、これをしっかり押える。

その上で、上記の具体例で例えば、民法総則の規定だと

  • Aが未成年だったらどうなるか?(4条以下の行為能力の問題)
  • Aの意思表示が錯誤に基づく場合はどうなるか?(意思表示の95条の問題)
  • Aではなく、Aの代理人と称する無権利者のCがAの代理人として売った場合はどうなるか?(113条の無権代理人の問題)
  • 代金支払い期日から10年を経過した場合はどうなるか?(167条1項の消滅時効の問題)

といった感じで考えれば、条文の具体的な法的意味も理解しやすい。

こうやって条文を読めば、民法にも出てくる法律行為や有償契約(559条)といった専門用語の意味をちゃんと理解しなければならないなと気づくし、ただ漫然と定義を暗記しているだけでは使えないということにも気づける。

同時に択一問題を利用するのがお勧め。民法は論文にも役立つので。
もう少しつっこんで言いたいこともあるけれど、またいつか。