にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

今年の民訴設問1の愚痴。の巻

まいどまいど~

にーやんです。

成績通知到着しました。
試験直後に晒した刑訴の再現答案はAだったので、この程度書ければという参考にしてください。
nihyan.hateblo.jp

民訴もAでした。今年の民訴に関する既判力などの考え方は色々と書いたので、これもよければ参考に。
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↑に民訴設問2の答案構成もここにあります。
ここでも書きましたが、民訴はもう少し詰めて問題文を工夫すべきだったんじゃないか?という不満があります。
まぁ終わった話なのであれですが……

設問1についての個人的感想として、
「そもそも訴訟物レベルで考えればまず処分権主義違反になるけど、問題文の誘導的には弁論主義だよなぁ」
と思いつつ、答案を書いたことを今でも忘れられない。
配点も15しかないので、無駄なこと書いて時間大丈夫かなとか思いながらも、処分権主義違反についても簡単に書きました。
というのも、引換給付判決できるかという問において訴訟物レベルでも問題になるのは明らかだから、そこをスルーするのも違うと思ったため。

こんな気持ちとは裏腹に、出題趣旨にはこの点に触れられておらず、このなんともいえない感情を消化してくれることはありませんでした。


H29民訴設問1の出題趣旨

 まず,設問1では,民事訴訟において,裁判の基礎となる資料の収集を当事者の責任とする原則(いわゆる弁論主義)が妥当し,その一環として,裁判所は当事者が主張しない事実を判決の基礎にしてはならないとの原則(いわゆる主張原則)が妥当すること,一般的に,主張原則の対象となる事実は少なくとも主要事実を含むと解されていることを前提に,代理の主要事実は何かを明らかにした上で,代理人による契約締結の事実を認定することの可否を検討することが求められる。また,この点については,判例最判昭和33年7月8日民集12巻11号1740頁)もあるところ,本件において,Aの証人尋問がされ,AがYの代理人として契約を締結した旨を述べたにもかかわらず,当事者はこれを問題にしなかったという事情の下で,主張原則との関係をどのように評価するかの検討も必要である。設問1は,弁論主義に関するごく基礎的な理解を問う問題である。

そういえば、民訴の過去問対策はみなさんもよく知ってる和田先生が解説した「LIVE解説講義本 民訴法」がめちゃくちゃ参考になるのでお勧め。

司法試験論文過去問LIVE解説講義本 和田吉弘民訴法 (新Professorシリーズ)

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できれば、旧司法試験の民訴の解説もあるのでゲットしたい。和田先生の解説はめちゃくちゃわかりやすく、民訴の問題の分析や答案の基本的な書き方の参考になります。
司法試験論文本試験過去問 民事訴訟法 (解説講義・実況中継)

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和田先生もところどころ司法試験の問題についてツッコんでいるので、そういうのも踏まえてどの程度できれば合格レベルになるのかという参考になります。
ということで、小生の鬱憤は和田先生がいつかもの申してくれるだろうと思っております。

小生のような不満は、試験直前期に法学教室の演習で処分権主義の問題を解いてたのが原因かもしれない。
法教の問題は加藤新太郎先生が出題の処分権主義違反の問題だった(法教439号114頁の問題)。
その問題はざっくりいえば、次のようなもの

 XはYに対し1000万円の貸金返還請求訴訟を提起 
 XはYに対する1000万円の貸付けの事実を主張したが,Yは否認
 Yは,仮定的に,1000万円は弁済期に弁済したと主張したが,Xは否認
 裁判所は,証拠調べの結果,XのYに対する1000万円の貸付けの事実は認定できないとの心証を形成したが,訴訟物と異なるXのYに対する1200万円の別口の貸金債権があることが,裁判所に判明した。そこで,裁判所は,Yに対し1200万円の支払いを命ずる判決をした。
 この判決について,民事訴訟法の原則との関係で問題点を指摘して,その適否を論じなさい。

これは、異なる訴訟物について判決することは処分権主義違反であるという典型問題。
加藤新太郎先生は民事系の偉い裁判官やってた有名な先生。
加藤先生曰く、この処分権主義違反の問題について以下のように指摘している。

 裁判所は,原告が申立てをしていない訴訟物について判断することはできず,「Xは,Yに対し1200万円を支払え」と判決することは,処分権主義違反である。初学者では,本問を弁論主義違反と誤答する者がいるが,処分権主義は申立てに対応し,弁論主義は主張に対応するものである。上記誤答は,申立てと主張との関係という基本的事項が理解できていないためとみられる。また,処分権主義違反であり,かつ弁論主義違反とする者もいる。これは,申立事項と整合しない主文を導く判決はそれだけで処分権主義違反として違法となり,弁論主義を論じる必要はない(論じる意味がない)ことが理解できていないためとみられる。

今年の民訴は、訴状で「贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求めるため,本件訴えを提起した。」と書かれており、訴訟物が贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求権であることが明らか。
したがって、売買を理由に,「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることは、訴訟物と異なる判断、すなわち原告が申立てをしていない訴訟物について判断するものであり、処分権主義違反になる*1
問は、裁判官の課題について答えろというもので、裁判官の課題は次のようなもの

 私の心証(注:売買契約と代金未払い)も同じですが,あなたの言うような判決(注:引換給付判決)を直ちにすることができるのでしょうか。まず,Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして,その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて,考えてみてください。

前段部分だけなら処分権主義違反を理由に引換給付判決はできないという答えもあるけれど、後段部分は「まず……」としており、主張のない証拠調べで顕出された事実=「Yの代理人AとXとの間で契約が締結された」事実を判決の基礎とすることができるかという点を「まず」検討しろと誘導されている。これは、弁論主義の問題。
ということなので、まず弁論主義の問題について検討する必要があり、これは必須事項。
通説に従って弁論主義第1テーゼ違反となればこの時点で引換給付判決はできないという結論で終わり。
ということで、さらに処分権主義違反を理由に引換給付判決ができないというのは蛇足かもしれない。
間違いではないので無益的記載事項ということなら、書かないほうがよかったなと。時間的もったいないから。
典型問題でもあり、すぐに書ける問題だったからよかったけれども、処分権主義の問題を検討しないでいいということを積極的に指摘してくれてもよかったんじゃないか?
消極的に弁論主義の問題を検討しろというのはわかる誘導だけれど、じゃあ処分権主義は?となるから。
加藤先生の上記指摘からしても、本問はやっぱりよろしくないので、来年以降は改善しなさいよ試験委員の偉い先生!

*1:もっとも、本問の場合、異なる事実を認定したというよりも、請求の事実の法的構成の違いとみることもできるのかもしれない。とはいえ、引換給付判決は訴訟物と異なる判断になることに変りはない