にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した物語である

既判力が及ぶ場合についての誤解と補足

民訴はもうええやろ。
と、思ってたら、下記の記事にコメントがありました。
nihyan.hateblo.jp

そこで、(もうお腹いっぱいだと思いますが)すこし補足します。

コメントに対する補足

以下のようなコメントがありました。

イーブイ 2017-06-21 22:37:36
 以前何度か書き込ませていただいた者です。 高橋重点講義の趣旨は、同一関係、矛盾関係、先決関係は、既判力が作用する類型をまとめたものである。 そのため、三類型に該当するから、既判力が及ぶ(作用する)という議論は、原因と結果、要件と効果の論理が逆転しており、本末転倒であるという意味です。 既判力が及ぶかという問題の検討にあたっては、三類型の議論はおいて、判決の蒸し返しかという観点から検討すべきであるという主張だと読むことが素直だと思います。 そして、にーやんさんの三類型に当てはめて、既判力が作用するかどうか検討することは、高橋が指摘するように本末転倒で、誤っているではないかと思いました。

イーブイさん。
いつも、ブログ記事直後にコメントをくれてありがとうございます。
民訴の記事もイーブイさんみたいなコメントがあったから書けたようなものでした。
イーブイさんに対する答えにはならないかもしれませんが、高橋先生らの基本書から考えるとこうなると思う私個人の見解としてこの記事を書きます。
この民訴の一連の記事を通して私の考えるところが届いたらいいなと思います。

通説の理解の確認

まず、ドイツではなく、我が国における通説的見解について、確認してみましょう。
通説は、前訴と後訴の訴訟物が同一、先決、矛盾の関係の場合にのみ既判力が作用し、前訴の既判力が後訴に及ぶことになるというのは、以前の記事で確認しました(勅使川原和彦・読解 民事訴訟法152頁)。これは、既判力が主文における判断、すなわち訴訟物に対する判断にのみ生じることの帰結といえます(コンメンタール民事訴訟法Ⅱ〔第2版〕448頁)。
通説に従えば、既判力が作用する場面を論じなければ、既判力が及ぶといえないので、このいずれかの関係を指摘しない場合の答案は誤答と勅使河原先生は指摘しています。
「三類型に当てはめて、既判力が作用するかどうか検討する」と指摘しているといえます。
では、これが勅使河原先生独自の見解かというとそうではなく、高橋先生も、同一、先決、矛盾の関係において既判力が作用する場面であることを否定しておらず、むしろその理解を前提としています(高橋・重点講義 (上)594頁以下)。実際に、同書618頁注36でも、「後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一・矛盾・先決の関係に立たず既判力は問題とならない」とする説明を肯定しています。つまり、高橋先生も「後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一・矛盾・先決の関係に立た」ないならば「既判力は問題とならない」=既判力は作用せず、後訴に既判力が及ばないということを肯定しているということです。
同様の指摘として、「建物収去土地明渡請求認容判決の既判力は、訴訟物が異なり矛盾・先決関係にもない売買代金請求の別訴には及ぶことがないことを山本克己説は指摘する。その通りであろう。」ともあります(同書628頁注43の2)。この部分から明らかなように、既判力の作用する場面が3つの場面に限られると高橋先生も理解しているということがいえます。なぜなら、既判力が及ばない理由を後訴の「訴訟物が異なり矛盾・先決関係にもない」ことに求めており、この理由は前後の訴訟物が同一、先決、矛盾の関係のときにだけ既判力が作用するという命題でなければ理由とならないからです。これら以外の場面において既判力が及ぶならば、前後の訴訟物が同一、先決、矛盾の関係にないとしたところで既判力が及ばないことを意味しないので、そのようには考えていないということがこの文脈から読み取れます*1

つまり、高橋先生もイーブイさんの指摘するような「本末転倒」な論述を肯定しているということになりそうです。また、仮に上記の説明がイーブイさんの指摘するように本末転倒な説明だとしても、高橋先生自身が、「この説明でも大過ない」ともしているところです(高橋・重点講義 (上)596頁、勅使川原和彦・読解 民事訴訟法146頁)。

また、高橋先生は次のようにも指摘されています(法教416号77頁)。

 このように後訴に(注:既判力が)作用していくが,これを普通は,前訴と後訴の訴訟物が同一,矛盾,先決の関係にあるときに既判力が及んでいくと説明する。

高橋先生も、既判力が及ぶ場面は「前訴と後訴の訴訟物が同一,矛盾,先決の関係にあるとき」であるという理解が「普通」としているわけです。これが、民事訴訟法における普通の理解といえるでしょう*2
そして、上述の通り、「後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一・矛盾・先決の関係に立たず既判力は問題とならない」ともしており、既判力が問題になる場面が前訴・後訴の訴訟物が同一・矛盾・先決の関係に立つときに限られることを前提としていることがわかります。

以上から、(高橋先生も含め)通説に従えば、本問において「前訴判決と後訴の訴訟物が異なり矛盾・先決関係にもない(既判力の作用する場面にない)から売買契約に基づく代金支払請求の後訴に、前訴の既判力が及ばず問題とならない」という論述でもよいのではないかと思います。

司法試験の問題は前訴の既判力が問題となる場面か?

確かに、高橋先生は、「訴訟物が前後で同一、矛盾、先決だけにこだわって考える必要はなく生産的でもない。」とも指摘しており、「訴訟物の同一、矛盾、先決で考えるよりも、既判力論の基本に戻り、一度決められたことの蒸し返しは許されないという本来の形で考える方がよい。前訴判決と後訴訴訟物の矛盾、先決で考えるのである」としています*3。もっとも、後者の指摘は、最後に「前訴判決と後訴訴訟物の矛盾、先決で考える」と高橋先生は指摘しているので、これは文脈全体を見ればわかりますが、矛盾関係が前訴請求が認容された場合にのみ問題となるため、「訴訟物」ではなく、「前訴判決」との関係をみるという趣旨です。

仮に、イーブイさんのように考えるとしても、司法試験の問題において、既判力が及ぶかどうかを考える際に、既判力ある判断、つまり前訴における訴訟物に対する判断と後訴請求やその主張が牴触するかどうかを検討する点では、同一、矛盾、先決の関係と異ならないでしょう。

そして、司法試験の問題では前訴の売買契約に基づく目的物引渡請求権の存在に既判力が生じます。後訴の訴訟物は売買契約に基づく代金支払請求権であり前訴とは訴訟物が異なり、後訴請求は、前訴の訴訟物たる権利関係(売買契約に基づく目的物引渡請求権の存在)を内容としませんから(請求原因は売買契約)、後訴請求において、前訴の既判力=売買契約に基づく目的物引渡請求権の存在は問題になりません。

問題となるのは売買契約に基づく目的物引渡請求権の先決関係である売買契約の成立及びその額です。前訴の訴訟物に対する判断にこれらは含まれません。そして、後訴請求も上述の通り前訴の既判力は問題となりません。
藤田先生も指摘されてますが、前訴の訴訟物が売買契約に基づく目的物引渡請求が双務契約であるからといって、またさらに引換給付判決で判決主文に引換給付の文言があったとしても、これらの理由から、反対給付の存在(売買契約に基づく代金支払請求権の存在)に既判力は生じません(藤田広美・解析民事訴訟359頁)。
そして、後訴請求において、売買契約の成否及びその額について争うことは、前訴判決における訴訟物に対する判断に反することにはなりません。したがって、遮断効(既判力の消極的作用)は生じません。
この点については、すでに下記の記事で検討しました。

以上が通説から考える結論だろうと、にーやんが考えるところです。
イーブイさんに届けば幸いです。

nihyan.hateblo.jp
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ということで、もう民訴は十分ですね。ありがとうございました。

解析 民事訴訟 第2版

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講義 民事訴訟 第3版

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民事訴訟法概論

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重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版

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重点講義民事訴訟法(下) 第2版補訂版

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*1:まとめると、「前訴と後訴が同一関係、先決関係、矛盾関係にある場合、既判力が作用する。」という命題とともに、「前訴と後訴が同一関係、先決関係、矛盾関係にないため、既判力が作用しない。」という命題がともに真ということになります。このようにいえる場合は、既判力が作用する場面が訴訟物の関係が前訴・後訴で同一、先決、矛盾の関係のときに限られる場合になります。 その結果、前訴・後訴で同一、先決、矛盾の関係にあるかどうかが既判力が作用するかを決することになり、それゆえ高橋先生を含めて一般的に既判力が及ばない理由に前訴・後訴で同一、先決、矛盾の関係にないことを求められているということになります。

*2:もっとも、矛盾関係は前訴の認容判決の際にのみ問題となるので、厳密には、前訴と後訴の訴訟物の関係ではなく、「前訴の判決内容と後訴とで考えるべきである」とも指摘している(法教416号77頁)。この場合においても、既判力の作用を前訴判決と後訴訴訟物の関係が同一、矛盾、先決にあるかで考えるため、通説と大差はない(高橋・重点講義 (上)596頁)。

*3:もっとも、「三類型に該当するから、既判力が及ぶ(作用する)という議論は、原因と結果、要件と効果の論理が逆転しており」という記載は、重点講義には見当たりませんでした。