にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

引換給付判決における引換給付部分に既判力は生じるのか?

まいどでーす。

もういい加減、民訴はいいかなって本当に思いました。はい。
特に、訴訟物理論なんかはどっかで聞いたこのある「法律学の森」そのものであり、深入り禁止である。

前回の続き

引換給付判決における引換給付部分に既判力は生じるのか?

引換給付判決において引きか給付部分である反対給付に既判力が生じるか

勅使河原和彦先生がこの点について次のように説明しています(法教416号134頁)。

 民訴法114条1項は,確定判決は「主文に包含するものに限り」既判力を有する,と規定している。しかし,訴訟物についての判断に既判力が生じる,と概念としては理解していても,実際の(本案についての)主文を見て,いったいどこの部分の判断に既判力が生じているか,意外と判断の容易でないものがある。主文に掲げられているものの,既判力を生じるとは考えられていない記載も存在するからである。例えば,引換給付判決における「反対給付と引換えに」という部分は,強制執行開始の要件(民執31条1項)を指し示すにすぎないとされ,訴訟物ないし申立事項(民訴246条)ではなく既判力を生じないと一般に考えられている。

ここから明らかなように、引換給付判決において主文で示される場合ですら、反対給付の存在などについては既判力は生じないことがわかります。
判決主文に掲げられており、判決理由中でも判断されているにもかかわらず、引換給付部分の反対給付について既判力が生じない理由について、藤田先生は次のように解説しています。これは、以前の記事にも書きました。
藤田広美『解析民事訴訟』359頁

 甲の乙に対する絵画引渡請求の訴えに対し,「乙は甲に対し,500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ」との判決が確定した後に,代金額が1000万円であったとして乙が訴えを提起することができるかどうかは,「500万円の支払を受けるのと引換えに」の部分に既判力が生ずるか否かにかかります(甲の訴えと乙の訴えは,訴訟物が異なります)。
 確定判決は,「主文に包含するものに限り」,既判力を有する(民訴法114条1項)とされ,何が主文に包含されているのかは解釈に係る問題です。少なくともその手がかりは主文に記載されている必要があるという意味では,既判力が付与されるためには主文への記載が必要条件ですが,主文に記載されたものすべてに既判力が生じるわけではありませんから十分条件ではありません。主文判断に包含されているものとは何かについては,訴訟物として設定され,審理が尽くされた実体法上の権利の存否の判断であると考えられています(〈昭和27年度第4問〉の解説1参照⇒350頁)。甲が設定した訴訟物は売買契約に基づく絵画引渡請求権であって,上記判決においては,この請求権の存在が既判力によって確定されていることになります。500万円の代金支払に関する部分は,主文に掲げられているとしても既判力は生じません。

ポイントは、やはり訴訟物。既判力は原告が設定した訴訟物に対する判断に生じる。したがって、原告が設定した訴訟物とは何か?が重要ということになります。言い換えれば、被告の主張は訴訟物ではないから、既判力が生じることはないといえます。
したがって、反対給付である代金支払請求権の存在は被告の攻撃防御方法(同時履行の抗弁)における主張にすぎず、原告の設定した売買契約に基づく目的物引渡請求権ではないので、結局、判決主文で引換給付文言があっても、既判力が生じることはないということになります。

ということで、売買契約に基づく目的物引渡請求権の存在について既判力が生じ、それ以上に代金支払請求権の存否に関する判断には既判力が生じないということになります。
そして、売買契約に基づく目的物引渡請求権と売買契約に基づく代金支払請求権は訴訟物が異なります。
前訴・後訴で訴訟物が異なる場合に、前訴の既判力が作用する場面は、訴訟物の関係が先決関係または矛盾関係の場合に限られます(勅使川原和彦『読解 民事訴訟法』155頁)。
前訴・後訴の訴訟物の関係が先決関係、矛盾関係の場合には、いずれも前訴の既判力ある判断と牴触するおそれがある。先決関係では、Xの所有権に基づく物権的請求の後訴においては、前訴の訴訟物がXの所有権の確認でその所有権の帰属がXにあると判断された以上、同一物についてXに所有権があるということを前提にする拘束力が裁判所に課せられます。
前訴においてXにある物の所有権の確認が認容された以上、同一目的物について複数の所有権が成立し得ないという一物一権主義という物権の法的性質を媒介にして、後訴において同一目的物についてYに所有権があるという判断は、前訴判決の既判力と矛盾することになります(矛盾関係)。

しかし、契約の効力として目的物引渡請求権があると前訴で判断されても、あくまで目的物引渡請求権の存在について既判力が生じるにすぎず、後訴の代金支払請求が棄却されたからといって、前訴の目的物引渡請求権の存在が否定されるという関係にはありません。前訴・後訴が同一の売買契約に基づくものだとしてもこれは変りません。
この理解には、前回の訴訟物の基本的な理解が問われます。
旧訴訟物理論は、実体法上の権利または法律関係ごとに訴訟物が異なると考えます。原告の被告に対する目的物引渡請求がなされて認容された場合、その目的物引渡請求権の存在に既判力が生じます。そして、実体法上の権利は、売買契約の権利という法的性質として当該目的物引渡請求権の存在に既判力が生じるということも、以前の記事で確認しました。
上記の藤田先生や勅使河原先生の解説でも示されているように、原告が売買契約に基づく目的物引渡請求権を訴訟物と設定したとしても、被告が同時履行の抗弁において主張する売買契約に基づく代金支払請求権は訴訟物にならない。だからこそ、被告が主張する売買契約に基づく代金支払請求権に既判力が生じない。これは、実体法上の権利関係としては、目的物引渡請求権と代金支払請求権が異なるということも意味します(売買契約に基づく目的物引渡請求権に同一の契約に基づく代金支払請求権も含まれるならこれにも既判力が生じることになるが、そうならないということ)。
したがって、前訴で売買契約に基づく目的物引渡請求が認容され、後訴において前訴と同じ売買契約に基づく代金支払請求が棄却されたからといって、前訴に生じた売買契約に基づく目的物引渡請求権の存在という既判力に反する判断になりません。両者は異なる実体法上の権利関係であって、前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決関係でも矛盾関係でもないということになります。したがって、前訴が認容されることと、後訴が棄却されることは両立するということになります。
質問において誤解が多いなと思ったのは、この前訴の訴訟物と後訴の訴訟物の内容に関する理解です。

次回は、売買契約に基づく目的物引渡請求権と売買契約に基づく代金支払請求権とが既判力が作用する場面ではないということを、もう少しつっこんで考えようかなと思うので、訴訟物が異なる場合において既判力が作用する場面について書こうかな?
え?もう民訴はいいって?


せやな。

また気が向いたら……