にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

訴訟物と既判力の関係について

まいどでーす。

梅雨入りして、なんかしんみりな感じしますね。

もう民訴はいいかなとも思ったのだけれども、似たような質問が結構ありまして、質問の根本的な原因は何かなーと思ったところ、訴訟物の理解がかなり曖昧な点にあるのかなと思いました。

で、今日は訴訟物について、なんか書こうかなと。
目次

訴訟物

訴訟物理論については、旧訴訟物理論と新訴訟物理論の争いがありますが、旧訴訟物理論の立場の伊藤先生は、訴訟物は「訴状の請求の趣旨および原因によって特定され,裁判所の審判の対象となる権利関係を指す」といわれます(伊藤眞『民事訴訟法』第4版補訂版199頁)。
学説は新訴訟物理論が多数といわれますが、実務は完全に旧訴訟物理論で今後も変ることはないでしょう。

旧訴訟物理論は、次のように説明されます。

旧訴訟物理論(藤田広美・解析民事訴訟法35頁)

 訴訟物は,実体法上の個別的具体的な権利又は法律関係そのものであり,その特定識別並びに訴訟物の個数及び異同は,実体法上の個々の権利が基準になるとする考え方を旧訴訟物理論といいます。この見解によると,確認の訴えでは,確認対象である実体法上の権利が訴訟物とされることは当然のこととして,給付の訴えについても,所有権に基づく返還請求権(物権的請求権),消費貸借契約に基づく貸金返還請求権(民法587条),不当利得返還請求権(民法703条)などの実体法上の請求権が訴訟物として理解されます。形成の訴えについても,不貞行為(民法770条1項1号),悪意の遺棄(同項2号)などの個々の形成要件又はこれらに基づく権利が訴訟物になると解されます。

リークエ民訴47頁には、訴訟物概念を基準として処理される主要なものとして、次の4つが挙げられていて、これはどの基本書も同じようなことが挙げられていると思います。
① 客体的併合該当性(136条)
② 訴えの変更該当性(143条)
③ 二重起訴該当性(142条)
④ 既判力の客体的範囲(114条1項)

訴訟物という概念は、既判力の客観的範囲だけではなく、訴えの変更や二重起訴等、色々と問題になるので、訴訟物の正確な理解が重要なんだなぁと、なんとなくわかります。

旧訴訟物理論の帰結(リークエ民訴47頁)

 たとえば,Y会社の運行する電車の事故によって乗客Xが重傷を負ったという場合,XはY会社に対して,不法行為に基づく損害賠償請求権(民709条)を主張することも,契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権(民415条)を主張することも可能であると考えられるが,この2つの請求権の主張は別々の訴訟物を構成すると仮定すると(後述する旧訴訟物理論である),上記①ないし④の処理はそれぞれ,①Xが双方の請求権を主張する場合,請求の客体的併合に当たる,②Xが一方の請求権のみを主張して訴えを提起し同一訴訟手続内で他方の請求権を追加主張した場合,訴えの変更に当たる,③Xが一方の請求権を主張し訴えを提起し訴訟係属中に,他方の請求権を主張し別訴を提起することは二重起訴には当たらない,④一方の請求権を主張して提起された訴えについて請求棄却判決がなされ,確定した場合,その既判力は他方の請求権を主張して提起された訴えには及ばない,という帰結が導かれる。

司法試験の問題では、訴状から明らかなように、原告は贈与契約に基づく目的物返還請求をしており、当該請求権が訴訟物になります。
旧訴訟物理論では、実体法上の個々の権利ごとに訴訟物は異なるので、売買契約に基づく請求は、贈与契約による請求と実体法上の権利と異なるということになります。
原告の訴え提起時における訴訟物は、「贈与契約に基づく目的物返還請求権 1個」なので売買契約に基づく目的物返還請求権という別個の実体法上の権利を審判対象としたい場合、訴えの追加的変更が必要となります(旧訴訟物理論の帰結)。
以上が、上記リークエで説明している部分です。

旧訴訟物理論では、「当事者」という主体的側面と「判定対象である権利又は法律関係」という客体的側面とから訴訟物は把握されます(藤田広美・講義民事訴訟19頁)。

今回の司法試験で問題となった訴訟物は、前訴が、XのYに対する売買契約に基づく目的物引渡請求権、後訴が、YのXに対する売買契約に基づく代金支払請求権ということになります。
同一の当事者、同一の売買契約ですが、あくまで判定対象である権利は、前訴が目的物返還請求権、後訴が代金支払請求権なので、訴訟物は異なるということになります。
既判力が生じる部分が、「主文に包含するもの」に限られており、これは訴訟物に対する判断と解されているので、前訴のXのYに対する売買契約に基づく「目的物引渡請求権」の存在について既判力が生じても、訴訟物ではないYのXに対する売買契約に基づく「代金支払請求権」については既判力が生じないことになります(藤田広美・解析民事訴訟法359頁)。
当然のことですが、訴訟物は売買契約に基づく目的物返還請求権であって、双務契約に基づく反対給付であるからといって、訴訟物ではない代金支払請求権という反対給付請求権の存否について既判力が生じることはありません(後述のとおり、これは引換給付判決がなされた場合でも同じです)。
この帰結は、一定の給付を受ける地位を訴訟物とみる新訴訟物理論でも変りません。給付内容が本件絵画という目的物の引渡しを内容とする点で、新・旧の訴訟物理論で変りはなく、したがって、目的物返還請求の前訴において、代金支払請求権は、「訴訟物にならない=既判力は生じない」ということになります。

もっとも、前訴も後訴も同一の売買契約に基づく権利であり、目的物返還請求権も代金支払請求権も、その先決関係にある売買契約に基づく権利です。
にもかかわらず、前者が肯定され、後者が否定されるということが生じるのはおかしいと感じる人もいるかもしれません。

以前の記事でも繰り返し指摘したことですが、ここで思い出すべきは、所有権に基づく物権的請求権が所有権とそれに基づく物権的請求権も先決関係にあるということです。この物権的請求権は、所有権に基づくものであり、所有権は先決関係にあります。
ところが、所有権に基づく物権的請求権認容後、敗訴した被告が所有権を争えるということが認められています。なぜなら、これは前訴の既判力ある判断は後訴の先決関係ではなく、後訴が前訴の後決関係にあるにすぎず、先決関係のような既判力が作用する場面ではないからです。これは前回の記事でも指摘しました。

同様に、売買契約に基づく目的物返還請求権の認容後、敗訴した被告が売買契約に基づく代金支払請求権が訴訟物の後訴で前訴の訴訟物の先決関係にある売買契約の成否を争うことができるということになります。所有権に基づく物権的請求後の所有権の確認の訴えと同じく、この場合も、既判力が作用する場面ではないからです。
両者は物権と債権という点では異なりますが、物権である所有権では後訴で争えて、債権である売買契約は後訴で争えないという理屈は既判力に関する限り採り得ないでしょう。所有権が先に確認されていれば先決関係であるため物権的請求権にその既判力が作用することに争いなく、このような関係が認められる物権ですら前訴が物権的請求であれば後訴で所有権を争えるのですから、当然に債権でも先決関係にある売買契約も後訴で争えると言えなければつじつまが合わないことになります。
ちなみに、先決関係で既判力が作用する場面は、先決関係の権利関係(原告の所有権の存否)が前訴で判断され、後訴でその権利関係に基づく給付請求(前訴原告が所有権に基づく物権的請求)をするような場合です。

以上が、旧訴訟物理論を前提にした帰結です。
司法試験は実務家登用試験であって、旧訴訟物理論をよく理解しとけば十分かなとは思うものの、今年の民訴のように訴訟物の理解を問われるような問題では、一応新訴訟物の理解もしておいた方がいいかもしれないな、とも思うところです。
まぁ、旧訴訟物理論とどう違うかって部分だけで十分だと思うけれども……
そもそも、なんで新訴理論が学説上多数とされているのかというのを知れば、旧訴の問題点が浮き彫りになるので、この点を知れば、今年の民訴のような問題点が見えてくるかもしれません。

旧訴訟物理論の問題点(前掲伊藤201頁)

 旧訴訟物理論の下では,実体法上の請求権ごとに訴訟物が分断され,所有権にもとづく明渡請求で敗訴した原告であっても,賃貸借終了にもとづく返還請求の後訴を提起することが妨げられない。このことは,紛争の一回的解決の要請に反し,相手方当事者や裁判所に不当な負担を強いる結果となる……。

このような旧訴理論に対する批判はよくなされるところで、新訴理論はこのような紛争の蒸し返しを回避し、一回的解決を可能とするために、訴訟物をこれらの請求権に基づいて給付を求める地位が1個とみなされる限り、1個の訴訟物とみる(前掲伊藤201頁)。
こう考えれば、実体法上の権利が所有権なのか、それとも賃貸借契約なのかは、攻撃防御方法にすぎないということになる。
司法試験では、こういう紛争の蒸し返し的な事案が結構出題されていて、既判力が問題となる事案はほぼこんな問題といえます。そこで、この不都合を回避するのに、新訴理論を採用するというのも一つの考えだけれども、司法試験的にはそうじゃなく、旧訴を前提としつつ、なんとかならないのかというのを考えさせるものが多いかなと思います。

旧訴訟物理論による問題の対応

旧訴訟物理論を前提とする限り、訴訟物の判断は実体法上の権利関係ごとに生じる結果、色々と批判があるのは上述のとおりです。
そのため、旧訴訟物理論を前提にどう問題を克服するかについて、リークエ民訴52頁に次のように書かれています。

 新訴訟物理論から旧訴訟物理論について指摘されている問題点に対しては,旧訴訟物理論の論者から,旧訴訟物理論を採用したとしても選択的併合を認めることで一定程度対応可能であると主張される。選択的併合とは,数個の請求のうちいずれかが認容されることを解除条件として他の請求について審判を申し立てることをいう(選択的併合については,⇒11-2-2-3)。たとえば,前述の電車事故の例におけるXの訴えを,不法行為に基づく損害賠償請求と債務不履行に基づく損害賠償請求の選択的併合と解することができれば,一方の請求が認容されるかぎり,他の請求について判決はなされないから,Xが二重に認容判決を得るという問題が生じることはなく,また,Xの提示する請求が1つも認容されないかぎり,全請求について棄却判決がなされるため,紛争の蒸返しという問題も生じないのである。
 なお,旧訴訟物理論の論者の一部は,請求権競合のケースにおいては常に原告の訴えを選択的競合と取り扱うことで紛争の蒸返しを回避しようとするが,競合する請求権は別個の訴訟物を構成すると考えながら,原告の意思にかかわらず,常に選択的併合と解するのは処分権主義に反する。したがって,選択的併合の形式で訴えを提起するか否かの決定は原告に委ねられると解するべきであるが,原告が選択的併合の形式で訴えを提起しない場合であっても,受訴裁判所が釈明をすれば,ほとんどの場合原告は訴えの変更によって選択的併合とすることになるから,結局のところ問題は顕在化しない。仮に原告が受訴裁判所の釈明に応じなかったとしても,請求棄却判決を受けた原告が前訴で主張しなかった請求権を主張して後訴を提起するという形で紛争を蒸し返した場合に寸ま後訴の提起を訴訟上の信義則に反するとして却下するという対応も残されている(2条。信義則による後訴の却下については,⇒9-6-7-3)。
 また,旧訴訟物理論の論者が,訴訟物の把握の仕方において,紛争の一回的解決に対する配慮をおよそ欠いているというわけではないという点にも注意すべきである。たとえば,旧訴訟物理論においては,正当事由による解約申入れを前提とする賃貸借終了(借地借家27条・28条)に基づく家屋明渡請求権と合意解除による賃貸借終了に基づく同じ家屋の明渡請求権とでは異なる訴訟物を構成するとみることも可能であるが,実務は,賃貸借契約終了に基づく家屋明渡請求権の主張が1個の訴訟物を構成し賃貸借終了の原因は攻撃方法にすぎない,と捉えている。また,同一事故により生じた同一の身体障害を理由とする財産上の損害の賠償請求権と精神上の損害の賠償請求権とでは,訴訟物を異にすると考えることも可能ではあるが,判例は,損害項目ごとに訴訟物が異なることになるわけではないとする(最判昭和48・4・5民集27巻3号419頁)。以上のように旧訴訟物理論を理解するかぎりは,新訴訟物理論との差異はそう大きいものではないと評価することも可能である。

司法試験は旧訴訟物理論を前提とするとやっかいだなぁという問題が多いので、その際の解決策として上記の視点は有用かなと思います。


では、今回のような引換給付判決の既判力はどうか?
これは、次回の記事で改めて考えてみようかなと。いや、もう民訴はいいかな?

民事訴訟法 第2版 (LEGAL QUEST)

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講義 民事訴訟 第3版

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解析 民事訴訟 第2版

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民事訴訟法 第5版

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ほなな