にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した物語である

H29民訴論文設問3 補論

補論

コメントで、民訴設問3に関して、「売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権」の存在に既判力が生じるとすると、「売買契約に基づく」という部分も既判力が生じるから、後訴はやはり売買契約の不成立の主張に遮断効が生じるんではないか?という質問を受けた。

この点に関してもこの記事で検討したつもりです。
nihyan.hateblo.jp

それよりも、旧試の平成15年度第2問が今年の民訴の解答を提供しているにもかかわらず、この点に触れるのを忘れてました。
以下で、コンメンタールや藤田先生が指摘するように、引換給付の売買契約に基づく代金債権については既判力は生じません。

ということで、基本の確認



まず、伊藤眞先生が「判決理由中の判断そのものに既判力を認めることは,法が予定するものではない」としているように、売買契約に基づく目的物引渡請求権が訴訟物の場合でも、その理由中の判断である売買契約の成立という点に既判力が生じるわけではない。また、訴訟物が異なる場合、売買契約の不成立の主張をしても遮断されることはない(後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一関係、先決関係、矛盾関係の場合は別)。

伊藤先生は、次のように指摘している。

 判決理由中の判断そのものには,114条2項が規定する相殺の抗弁の場合を除いて,既判力が認められない。当事者が申立てによって確定を求めているのは,訴訟物たる権利関係であり,判決理由中の判断は,それが事実に関するものであれ,または訴訟物の前提となる法律関係に関するものであれ,訴訟物を基礎づける攻撃防御方法についての判断にすぎないからである。かりに理由中の判断について既判力が認められ,後訴裁判所に対する拘束力が生じるとすれば,裁判所は当事者が複数提出する攻撃防御方法のいずれについて判断するかの自由を制約され,ひいては,当事者の攻撃防御方法提出も弾力性を失う結果となる。法が,既判力の対象を訴訟物に限定しているのは,このような趣旨による。
 したがって,たとえば貸金返還請求訴訟において,被告の主張した弁済の抗弁が認められ,請求棄却判決が確定したとしても,債務が弁済によって消滅した旨の判断は,後訴裁判所を拘束しない。その結果,被告が貸金債権は不成立であったので,弁済された金員は不当利得となると主張して,後訴を提起したときでも,前訴の既判力によって,不当利得の主張が排斥されるわけではない。

コンメンタール民事訴訟法Ⅱ〔第2版〕457頁ではもっと端的に典型例が説明されている。

 主文に表示された判断以外の判決理由中においてされた判断については,既判力は生じない。例えば,所有権に基づく家屋明渡請求訴訟において,その判断の前提として,売買契約の有効性について判断がされていたとしても,また原告の所有権の有無について判断されていたとしても,これらの点には,既判力は生じない。所有権がないことを理由に敗訴した原告も,別の訴訟で自己の所有権を主張することは,既判力により妨げられない。

「売買契約の有効性について判断がされていたとしても」この点には、既判力は生じないとはっきりと書かれている。
にもかかわらず、「売買契約に基づく」という部分に既判力が生じ、後訴で既判力の成否を争えないというのは、前訴の理由中の判断に既判力を認めることと等しく、これでは理由中の判断に既判力が生じないとした114条1項の原則と矛盾した理屈となってしまう。

したがって、売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権が訴訟物の場合、その請求原因事実である売買契約の成立は、判決理由中の判断であって、既判力は生じない。
売買契約の不成立という主張が後訴で遮断されるのは、訴訟物が前訴と後訴で同一、先決、矛盾といった関係ゆえ、売買契約の不成立とすると、前訴で認められた売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権の存在を否定することとなり、矛盾してしまうというような場合などに限られる。
したがって、後訴が売買契約に基づく代金支払請求で、前訴と訴訟物が異なる場合において、先決関係でも矛盾関係でもなく、したがって、前訴の訴訟物ある判断と牴触することがないときには、前訴の理由中の判断である売買契約の不成立を主張することも認められるというのが民訴法の原則である。

そして、(当然ではあるけれど)理由中の判断に既判力は生じないと断言する伊藤先生が指摘する「実体法上の属性,いわゆる法的性質も既判力によって確定される。」という意味は、決して、理由中の判断である「売買契約」の成立に既判力が生じることを意味しない。
法的性質とはその意味どおり、訴訟物たる実体法上の権利関係の法的性質を指すものである。上述のとおり、代金支払請求権といったところで、その法的性質が明らかにならなければ、実体法上のどの権利に基づくものかがわからないからだ。
そのために、「売買契約に基づく」という法的性質について明らかにし、代金支払が売買契約に基づく権利であることを明示する。これによって訴訟物が明らかとなり、審判対象が確定するというわけである。
したがって、既判力が生じる主文に包含する判断が何かを明らかにするには、ただ主文の「被告は、原告に、金300万円支払え」という部分だけみてもだめで、判決理由から訴訟物を特定する必要がある。だからといって、判決理由中の判断に既判力が生じるわけではなく、これは実体法上のどのような請求権について判断されたのかを特定する作業をするに過ぎない。
藤田広美・講義民事訴訟法355頁には次のように、このことが説明されている。

 判決主文の文言は,「被告は,原告に対し,2000万円を支払え」(金銭給付請求に対する認容判決の場合),「原告の請求を棄却する」(棄却判決の場合),などと簡潔に記載されますから,主文に記載されている文言だけで既判力ある判断の内容を確定することはできません。そこで,訴訟上の請求ないし訴訟物が請求の趣旨及びその原因によって特定されることと照応して,既判力ある判断の内容は,主文だけでなく判決の事実及び理由中の記載を斟酌して特定されると理解すべきことになります。条文上も主文に包含するものとされているのは,このような趣旨で理解されます。

引換給付判決における引換給付部分の既判力の有無

引換給付判決では、「原告が金200万円を支払うのと引換えに」といった引換給付すべき旨の主文が明示される。
では、この部分に既判力は生じるのか?
前掲コンメⅡ459頁では、次のように解説する。

 例えば,原告の物の引渡しの請求に対し,被告が同時履行を要求しうる50万円の反対債権が存在することを抗弁として提出した結果,「被告は,原告が金50万円を支払うのと引換えに物を引き渡せ」という引換給付判決が下された場合,反対債権はその訴訟では訴訟物となっているのではないから,その存在および金額についても既判力を生じない。

つまり、売買契約に基づく目的物引渡請求権とその代金との引換給付判決においては、反対債権である売買代金債権の存在およびその額に既判力は生じないとする。

本問と類似の旧司法試験の平成15年度第2問の問題がある。

旧司法試験の平成15年度第2問

 甲は,乙に対し,乙所有の絵画を代金額500万円で買い受けたと主張して,売買契約に基づき,その引渡しを求める訴えを提起した。
 次の各場合について答えよ。
設問1省略
設問2
 甲の乙に対する訴訟において,「乙は甲に対し,500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ」との判決が確定した。その後,乙が,甲に対し,この絵画の売買代金額は1000万円であると主張して,その支払を求める訴えを提起することはできるか。

訴訟物は次のとおり
前訴:甲の乙に対する売買契約に基づく絵画の引渡請求権
後訴:乙の甲に対する売買契約に基づく1000万円の代金支払

今年の司法試験と異なるのは、引換給付の額よりも大きい額で後訴を提起しているという点のみ。
これは、前訴被告が矛盾した請求をする場合で、前訴原告が矛盾した主張をする今年の民訴とは異なり、甲としては、むしろ前訴の売買契約の成立及びその額として500万円だったと主張したいところであろう。
既判力は制度的効力。既判力の双面性から、既判力が生じるとすれば、原告・被告双方が既判力ある判断に反する主張は遮断される。
そこで、前訴で判断された売買契約に基づく代金額と異なる主張をすることが、既判力に反するかが問題となる。これは、今年の司法試験でも同じである。

藤田広美・解析民事訴訟359頁には次のように書かれている

 甲の乙に対する絵画引渡請求の訴えに対し,「乙は甲に対し,500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ」との判決が確定した後に,代金額が1000万円であったとして乙が訴えを提起することができるかどうかは,「500万円の支払を受けるのと引換えに」の部分に既判力が生ずるか否かにかかります(甲の訴えと乙の訴えは,訴訟物が異なります)。
 確定判決は,「主文に包含するものに限り」,既判力を有する(民訴法114条1項)とされ,何が主文に包含されているのかは解釈に係る問題です。少なくともその手がかりは主文に記載されている必要があるという意味では,既判力が付与されるためには主文への記載が必要条件ですが,主文に記載されたものすべてに既判力が生じるわけではありませんから十分条件ではありません。主文判断に包含されているものとは何かについては,訴訟物として設定され,審理が尽くされた実体法上の権利の存否の判断であると考えられています(〈昭和27年度第4問〉の解説1参照⇒350頁)。甲が設定した訴訟物は売買契約に基づく絵画引渡請求権であって,上記判決においては,この請求権の存在が既判力によって確定されていることになります。500万円の代金支払に関する部分は,主文に掲げられているとしても既判力は生じません。

以上の文献では、引換給付部分に関しては既判力が生じないという点で一致しており、したがって、前訴でのこの判断を理由に、後訴の売買代金請求で、前訴の売買契約の成否およびその額について遮断効を認めることはできない。
また、上記コンメⅡが(後訴の)反対債権はその訴訟(前訴)では「訴訟物となっているのではないから,その存在および金額についても既判力を生じない。」
そして、前訴と後訴とでは、訴訟物を異にし、両訴がいずれも「売買契約に基づく」ものだとしても、それは実体法上の法的性質を明らかにしたものに過ぎず、「売買契約に基づく」という事実または売買契約の成立という判断に既判力が生じるわけでもないから、前訴でこれに基づく引渡請求権が認められたからといって、後訴の代金支払請求権が認められることを意味しない(前訴認容後訴棄却でも両立する)。すなわち、後訴請求は前訴の訴訟物に関する判断と矛盾牴触しない。
したがって、売買契約の成否およびその額について争うことは前訴の既判力と牴触しないということになる。

ちなみに、訴訟物において「売買契約に基づく」という書き方がなされるのは、典型契約である売買契約によるから。
これが、瑕疵担保に基づく請求の場合は、一般に、その瑕疵担保の規定に基づく損害賠償請求権が実体法上の訴訟物となる。例えば、「民法○○○条に基づく損害賠償請求権 1個」みたいな感じ。この場合、「民法○○○条に基づく」ということは、実体法上の権利を指すに過ぎないことがより明らかといえる。そして、これは「売買契約に基づく」というか「民法555条に基づく」というかで変らない。いずれも訴訟物の法的性質決定としては同じ意味である。
このように、他の実体法上の請求における訴訟物と比較して考えても、「売買契約に基づく」ということから売買契約の成立については既判力が生じないということが理解できるだろう。
「所有権に基づく」とか「売買契約に基づく」とかいったところで、後訴において前訴の訴訟物の前提となる法律関係、すなわち前訴の理由中の判断(請求原因の判断)に既判力が生じることはない。
その意味を正確に理解するには、訴訟物の理解を前提とする。
この点については、また改めて書きたいな。
新訴訟物理論がいかに実務で使えないかということと合わせて。

コンメンタール民事訴訟法〈2〉第1編/総則/第4章~第7章

コンメンタール民事訴訟法〈2〉第1編/総則/第4章~第7章

民事訴訟法 第5版

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解析 民事訴訟 第2版

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