にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

処分権主義における「申立事項」とH29民訴論文設問2⑵

前回の続き

設問2の答案構成

設問2
小問⑴
1 Stg:XのYに対する贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求権 1個
⑴ 第1回口頭弁論期日におけるXの「仮にこの取引が売買であり」という部分は、訴訟物で主張する贈与契約と両立しない。
→ 予備的請求として訴えの追加的変更をするか釈明求めるべき
仮に、予備的請求として追加すれば、引換給付判決の余地あり
⑵ 予備的請求が追加されたことを前提にすると、Yの契約が売買だったとする旨の主張は、主位的請求との関係では積極否認、予備的請求との関係では、売買契約の事実については先行自白となる。
 同時履行は権利主張も必要
→ この点について釈明を求めるべき
2 以上を前提に、同時履行の抗弁権をYが主張する場合、引換給付判決OK
∵ 処分権主義の趣旨 Xの意思 Yへの不意打ち
小問⑵
1 220万円
⑴ 裁判所は220万円と評価することは弁論主義違反にならない
∵ 売買代金の時価相当額は法的評価
⑵ 引換給付判決は処分権主義違反にならない(質的一部認容判決)
よって、200万円の引換給付判決OK
∵ 全部棄却よりXの意思に沿う Yへの不意打ちもない
2 180万円
⑴ 上記⑴同様
⑵ 引換給付判決は処分権主義違反になる
∵ Xが自認する200万円以上の債務がないという申立事項に準じてみることができる(債務の一部不存在確認の訴えと実質的に同視)。Yへの不意打ちにもなる。
200万円の引換給付判決にとどめるべき。

小問⑵がにーやんの現場思考で思いつきという点は前回指摘した。

本問の予備的請求に関しては、売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権が訴訟物であり、代金支払請求権は訴訟物ではない。
したがって、代金額部分は審判対象じゃないはず。
そして、代金額の時価相当額の判断を法的評価とすれば、代金額の判断は裁判所の専権事項といえそう。
なので、当事者が主張しない額でも、裁判所は認定できそうだ。
しかし、それって特にYにとっては不意打ちになりそうだ。だから、少なくともこれを理由に引換給付判決ダメと書けば足りるのかもしれない。

以上は、「訴訟物=申立事項」という前提での思考。
にーやん的にはこの前提だった。しかし、これは従来の理解といえる。

にーやん的には、本問は処分権主義のメインの問題は、これが「申立事項」を超える判断かどうかだと思った。「申立事項」の範囲を定めて何を設定するのかは原告にのみ委ねられたものであり、これを逸脱してはならないというのが処分権主義だからだ。
で、自分なりに理屈を考えてみた。


実質的にみて小問⑵では、売買に基づく請求で、Yが同時履行の抗弁権を主張しており、引換給付判決の可能性のある事案であった。
そうすると、Xの自認する代金額200という部分は、その限りで実質的に給付を強いられる可能性があるといえる。他方、Xとしては代金額は200万円であるから、それ以上は本件売買で債務を負わないという趣旨も含むといえる。つまり、実質的にみて、200万円を超える債務の一部不存在確認の訴えにおける場合と同視できるんじゃないか?
仮にそうすると、220万円の代金額の認定は代金債務を220万円で認める点ではXの主張する200万円の代金額に比べXに不利だが、一部認容として許容しうる。
しかし、代金額180万円というのは、それ以上の代金債務はないという点でXの自認部分である200万円よりも20万円分だけ広く債務の不存在を認定したことを意味する。
したがって、実質的にみて、申立事項を超える認定だといえる。

そういう理屈。

ぶっちゃけ、債務の一部不存在確認の訴えと同列に扱えるような内容ではないと思うので、この理屈はちょっとどうかなと思うが、こんな理屈以外にはパッと思いつかなかった。

引換給付と処分権主義との関係では、立退料との引換給付判決の問題が本問を考える上で参考になる。
本問に即して考えると、Xが立退料200万円を提供し、正当事由もあるからと、Yに対して、賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求をした。これに、Yは立退料は300万円だと反論したという事案。

この場合、訴訟物は、XのYに対する賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求権である。ここに、立退料の給付またはその額の確認は「申立事項」に含まれていないといえる。
立退料の額は正当事由を補完するものであり、それは規範的要件の問題とされている。
よって、裁判所は、その額を220万円とも180万円とも認定することはできる。
コンメンタール民事訴訟法Ⅴ51頁には次のように書かれてある。

 無条件の給付を求める請求について,条件あるいは留保が付いた判決をすることは可能であり,また当事者の意思に反する特段の事情のない限りしなければならない。例えば,売買契約に基づく土地の移転登記請求を求めた訴えに対して,残余売買代金との同時履行の抗弁権(民533条。権利抗弁である)を被告が提出した場合において,この抗弁が成り立っときは,残余代金の支払を引き換えに移転登記を認める判決(引換給付判決)をすることになる(最判昭和46・11・25民集25巻8号1343頁,判時651号68頁,判タ271号173頁参照)。

では、180万円の立退料を認定して引換給付判決できるか?
ロープラクティス民事訴訟法によると、この場合には処分権主義違反として許されないというのが多数の理解らしい(104頁)。ただ、理由は説により異なる。

申立事項と訴訟物との関係

①立退料支払いの負担付き明渡請求権と②立退料支払いの負担のない無条件の明渡請求権の訴訟物と審判対象はどう考えるのか?
ロープラ民訴では、2つの考え方が紹介されている。
a説は、「申立事項≠訴訟物」という理解。つまり、申立事項と訴訟物は違うとする。
b説は、「申立事項=訴訟物」という理解。

a説の場合、大幅な増額でない限り、処分権主義違反にならないという。200万円の立退料において20万円の差異にとどまる本問の場合、処分権主義違反にならないとなりそうだ。
もっとも、ロープラ民訴103頁は、a説においても、Xの申立額は200万円であり、これより減額することは原告の申立てよりも有利な判決であるから違法とする考え方があり得るとする。
①立退料支払いの負担付き明渡請求権と②立退料支払いの負担のない無条件の明渡請求権は訴訟物が同一であるとする最判昭和46・11・25はa説に近いとみられている。

b説の場合、①立退料支払いの負担付き明渡請求権と②立退料支払いの負担のない無条件の明渡請求権は訴訟物を異にし、①は原告の求める利益の上限を意味する。
したがって、立退料を180万円とする引換給付判決はXが求める利益である200万円の立退料を超えるものとして、処分権主義違反となると説明する。

この例を借用して司法試験の問題を考えると、b説のような説明をすることで、代金額を180万円とする引換給付判決は処分権主義違反とみることになりそうだ。
この場合、①代金額200万円の支払いの負担付き売買契約に基づく引渡請求権と②負担のない無条件の売買契約に基づく引渡請求権とを区別して考えることができよう。
もっとも、本問では明示的に①の請求をしているといえるかは明らかではない。もちろん、当初は贈与を主張していたことやYが売買を主張しており、代金を支払ってもらっていない事実はあるので、予備的請求である売買に基づく請求という点も踏まえると、①の趣旨とみることもできそうではある。
いずれにしても、この点をクリアした上で、Xの示した利益を超える判断をするものと説明することが、一つの正解筋の答案といえそうだ。

ちなみに、素直に②の無条件の売買に基づく引渡請求権と構成するとどうなるか?
この場合、180万円はおろか、220万円としてもXの示した利益、つまり無条件の引渡請求という申立事項を超えるということになりそうだ。
しかし、少なくとも220万円の引換給付判決も処分権主義違反とするのは多数説の理解ではない。
この場合、220万円の引換給付判決は一部認容判決として許容するのが判例であり、一般的な理解である。

a説で、かつ、Xの主張する代金額より減額することはXの申立てよりも有利な判決であるから処分権主義違反とする考え方(多数説)が無難かもしれない。この場合、なぜ減額認定の場合にのみ申立事項との関係で処分権主義違反といえるかが問題となるが、ロープラ民訴では申立事項の捉え方がいまいちよくわからなかった。

こういうときは、タネ本とも言われる高橋重点講義でさらに調べると色々と見えてくる気がする。
高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)』235頁では、訴訟物と申立事項について次のように解説されている。

 ところで、訴訟物(訴訟上の請求)として設定されたものが申立事項であるというように、訴訟物(訴訟上の請求)と申立事項は内容的には同じものを指すと伝統的には理解されてきた。246条も、別の訴訟物について審判してはならないことを定めたものと、漠然と理解されてきたのである。しかし、厳密には、両者は別のものだと捉えることもできる。訴訟物(訴訟上の請求)とは、それ以上の分割を許さないという意味での訴訟の最小基本単位であるが、申立事項は訴訟物(訴訟上の請求)によって示される利益の内で原告が欲する利益の限度を画するものを指す、と概念規定するのである

ここではa説の説明がなされている。
245頁では、以上を前提に立退料に関する問題について、次のように指摘している。

 原告(賃貸人)が500万円の立退料を申し出たとき、裁判所が、それより低い300万円の立退料で引換え給付判決を出すことは適法か。これは、原告の申出以上に原告に有利となり(立退料の額が少ないほど賃貸人=原告に有利である)、処分権主義の一般論から不適法だと考えるべきである。

やはり、申立事項としては、原告の主張する立退料を考慮している。原告の主張する立退料の額を「訴訟物(訴訟上の請求)によって示される利益の内で原告が欲する利益の限度」とすれば、このようになる。
また、249頁の注16には、「立退料を原告に有利に減額することは、原告申出額はもらえるものと期待していた被告(賃借人)にとって、不意打ちとなろう。」と書かれており、この点は司法試験の問題でも同様に当てはまる理由となる。

以上を司法試験の問題に当てはめれば、訴訟物(訴訟上の請求)によって示される利益の内でXが欲する利益は、代金額200万円という点であるから、これを超えれば、つまりXの申し立てるよりもXに利益となるような代金額180万円の認定は、申立事項を超えるものといえる。また、Xの主張する200万円の限度内で代金が得られるだろうと期待していたYにとって不意打ちになる。
したがって、処分権主義違反となるから、代金額を180万円とする引換給付判決はできない。
そこで、裁判所としては、この場合においても代金額を200万円とする引換給付判決をするにとどめるべきであろう。こう考えても、Xの申立事項の枠内の認定であり、Xの意思に反することもないし、Yに対する不意打ちもないからである。

ということで、結論は同じでも、小生の解答はちょっと違う感……いや、だいぶ違う感じですね(汗)
はい終了~。