にーやんのブログ

三振したにーやんが再ローを経て司法試験に合格した弁護士の物語である

短答問題 民法 問題3は疑義問?。の巻

今回は軽めのやつ

ローの友だちに質問を受けた。

「なぜ、短答民法の問題3の正解が2なのか?肢ウは、正しいのではないか?」

肢ウの問題は以下のようなもの

Aが隔地者Bに対し契約申込みの通知を発した後,Aが行為能力を喪失した場合,Bがその事実を知っていたとしても,当該契約申込みの効力は生じる。

これが○か×か?

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にーやんは、まったく気がついてなかった、というか、普通に原則は意思表示した者の死亡や制限行為能力者になったという事情は、意思表示に影響を与えないが(民法97条2項)、契約の申込みの意思表示の場合は、契約の申込み後に制限行為能力者になったことを相手方が知った場合、97条2項が適用されない結果、申込みの意思表示は無効となる(民法525条)、というふうに思い込んでいた。したがって、肢ウは×とした。そして、法務省もそういう答えを前提に、本問は正解していた。

実際に、山本敬三「民法講義Ⅳ-1契約」35頁にも、契約の申込みについて、「相手方Yが申込者Xの死亡もしくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合」には、「97条2項は適用されず、申込みは効力を失う」と記述されている。申込みの効力を失うという意味は、申込みの意思表示としての効力が否定されるということであり、したがって、これに対して承諾の意思表示があったとしても申込みの意思表示の効力が欠ける以上、申込みと承諾の合致が認められないため、契約は成立せず、契約の効力が生じないということになる。
しかし、多くのコンメンタール等では、「制限行為能力者の申込み」として取消しされる可能性のある意思表示としては効力を有するという趣旨のことが書かれている(新版注釈民法(13)478頁*1、論点体系 判例民法5 契約Ⅰ38頁等)。
しかも、京大の最強民法学者ヤマケイが無効としているのに対して、もう1人の最強民法学者しおみんは、契約の申込みの意思表示について、申込者が申込みの意思表示を「発信」した後に制限行為能力者となった場合、申込みの相手方が「制限行為能力者になったことを知った場合には,民法97条2項は適用されず,……取消可能(制限行為能力者になった場合)とされています」という(潮見佳男「基本講義 債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得」18頁)。

完全に学者の見解が割れている。いやー、こんなところ条文と基本的なことしか知らなかったため、こんな割れているとは存じ上げませんでしたわ。

調べていていくつか気がついた点がある。
第1は、各学者がこの点について争いなく断定的に記述しているという点。つまり、一方の教科書では、申込みの相手方が行為能力の喪失の事実を知った場合、申込みの意思表示が無効と断定的に書いており、一見争いがないように見える。他方の教科書では、取り消しうる意思表示としては有効と断定的に書いており、この点に争いがないように書かれている。しかし、明らかにここでは争いというか、誤解というか、見解の相違が見られる。
第2は、上記のヤマケイの本の記述について。ヤマケイの本では、一見矛盾するような記述がある。というのは、前掲山本35頁では、申込みの相手方が行為能力の喪失の事実を知っていた場合、申込みの効力を失うとしつつ、36頁の要件事実においては、この抗弁を主張するためには、行為制限能力を理由とする取消しの意思表示が必要としている(要件事実マニュアルⅡ6頁もこれに従って記述されている)。
つまり、ヤマケイは、一方の解説において、①申込みの相手方の行為能力の喪失の事実につき悪意であることだけをもって申込みの意思表示の無効とするのに、他方で、②525条による抗弁を主張するにはこの悪意だけではなく、さらに取消しの意思表示も要するとしているのである。この要件事実を前提とすると、取消しの意思表示がない限り、申込みの意思表示は有効なものということになりそうである。そうすると、悪意だけをもって申込みの効力が否定されるとする①の記述とは矛盾することになる。

いずれにしても、肢ウは問題としては不適切なものだったなと思われる。

しかし、そのことをもって設問3自体が問題としてなり立っていないといえるかは、一考を要する。
肢ウはとりあえず置いておいて、問題は誤っている肢の組み合わせを選ばせるもので、選択肢には「1.アイ」と「2.アウ」があり、アが誤りな点に争いはない。ということで、イが明らかに誤りというのであれば、正解は1、イが正しいなら正解は2ということになる。

で、肢イは以下のようなもの

AがBから契約解除の意思表示を受けた時にAが成年被後見人であった場合,Aの成年後見人CがBの契約解除の意思表示を知るまで,当該契約解除の効力は生じない。

これが○か×か。

にーやんは、普通に民法98条の2で処理すれば、ただし書からいって法定代理人が知るまでは、受領能力を欠く成年被後見人に対する意思表示の効力は認められないよな、と思いまして、○とした。
しかし、これは厳密には正確ではなく、「効力が認められない」ではなく、表意者が「対抗できない」という意味で理解しなければならない。すなわち、98条の2では本文で、受領能力を欠く者に対する意思表示は、「対抗できない」として、ただし書で、「法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない」としている。対抗できないのは、受領能力を欠く者に対して意思表示をした者であり、法定代理人が知ったときに対抗できるということを定めたものに過ぎない。したがって、通説の理解では、「受領無能力者は当該意思表示の効力の発生または不発生のいずれかを選択できる」と新版注釈民法(3)566頁は記述している。この注釈民法で指摘されている重要な点は、「ただし,受領者本人が効力の発生を選択しうるのは受領能力を有するに至った後でなければならない」ともされている点だろう。したがって、肢イで解除の効力を肯定するには、受領能力を有するに至った事実と効力発生の選択をしたことという事実が必要となるが、そのような事実はない。したがって、受領無能力者による解除の効力を肯定できるからといって、直ちに肢イが不正解となるわけではない。問題文にない事実を勝手に捏造することは許されないのである。

ということで、問題なく肢イは正しいといえそうだ。したがって、誤った肢はアとウということで正解は2となる。
肢イと肢ウとの比較で、どちらが○に傾き、あるいは×に傾くのかを条文の単純な当てはめで考えれば、肢イが○で肢ウが×に傾くはずなので、上述の注釈民法の知識なんて不要だ。
ということで、本問自体は、設問としては成り立つといえる。

ただ、舛添のおっさんではないが、本問は「違法ではないが不適切」という表現が当てはまる悪問の類といえる。
三大国家試験民法の短答問題を作っていた人の話を思い出すが、問題をきちんと作れない人もいると言っていた。
にーやんの予想では、実務家出身の作問者が他の本をきちんと精査しないまま、山本敬三の本、しかも民法総則なのでを参考に、「民法講義Ⅰ 民法総則」133頁だけを見て作問したんじゃないのかな~とか思うところ。

それでは、買物行ってきます。

*1:ただし、「被保佐人または被補助人の場合は,重要な財産行為(13)の申込みは取消可能となり,……成年被後見人の場合もその申込みは取消可能とな」るとした上で、その後の文章では「制限行為能力者の申込みについてはその能力喪失を証明した場合のみ,その申込みは無効となる」という記述もあり、この一文を読む限りは、申込みの意思表示の効力が認められないともいえ、文章の前後関係が明らかではない